GOOD MORNING DREAMER

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【Review】King Gnu『CEREMONY』

2019年の紅白歌合戦にも出場した、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのミクスチャーバンドKing Gnu(キングヌー)が、3rdアルバム『CEREMONY』を2020年1月15日にリリースしました。

King Gnuと言えば昨今の音楽シーンでは比較的珍しいツインヴォーカルのバンド。
前作『Sympa』ではスケールの大きさを見せつけ、私たちの記憶に異彩を放つ才能を確かなものとして植え付けましたが、今作はそれ以上の衝撃をリスナーに知らしめる一枚となっています。

デビューから1年の”モンスターバンド”が送り出した、今の音楽シーンの中で決して触れずに通れないこの一枚の「傑作」と呼ぶべきアルバムのレビューを書き留めておきたいと思います。

King Gnu『CEREMONY』

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令和という新時代を迎えてすぐ、隕石のように爆発的なヒットを生むであろうアルバムが彼らの元から降ってきました。
2020年はまだ始まったばかりなのに、多くの人が今作に心を奪われ、今年を代表する一枚になると確信したのではないでしょうか。

粒揃いの楽曲たちはそれぞれの独立性が高く、その一曲一曲はまるで精巧に削り出された宝石のように各々で輝きを放っているのに、緻密な計算の上で「こうでなければならない」順序で並べられ、見事に一枚にパッキングされています。
タイアップが多く、”テーマ性”がある大元の作品のために作られた曲がある中で、こうもシャッフル再生が似合わないアルバムを完成させることが出来るのかと感嘆の息を漏らさずにはいられません。

何が凄いって、「絞り出した感じのしない傑作感」がなんとも言えず恐ろしいのです。
King Gnuの音楽はどれも素晴らしいものなのに、これ以上のものは作れないんじゃないか?という感じが全くなく、サラッと作って仕上げたような感覚すら覚えます。

筆者が触れた「傑作」と呼べるアルバムの中でも、気合を入れて聴かざるを得ない作品には多く出会ってきましたが、「片手間に聴くことのできる傑作」はそうそうありません。

スッと心に入ってきて、沁み渡る。
音楽が好きな人ならば必ず通るべき一枚がここにあります。

♥ King Gnu official YouTube channnel/King Gnu - 「CEREMONY」Teaser Movie

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01. 開会式

歓声から始まる独特なインストゥルメンタル。
ノーイントロの『どろん』へ向けた良いアクセントになっている一曲です。

『開会式』と聞いてもっと清々しく空に響き渡るような曲を想像しましたが、彼らはその逆を行っていました。
どことなく異様で人間の心の中にある様々な色を浮き上がらせるようなオーケストレーションが、King Gnuの持つ多面性を引き立たせます。

(悪い意味ではなく)煌びやかさのないファンファーレが凄い。(語彙力の欠如)

02. どろん

♥ King Gnu official YouTube channnel/King Gnu - どろん

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2020年2月21日公開の映画「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」の主題歌。
映画のために書き下ろされた新曲です。
曲が持つ日常と狂気の狭間のような雰囲気が、映画の奇妙でありながら現実に起こり得そうなギリギリの世界観とのマッチングを生み出しています。

イントロやインタールードが無く、アウトロも短かい特殊な構成。
1番から2番まで全く息をする暇がなく、畳み掛けるように駆け抜けるテンポの良さで聴衆の心を掴んで離しません。
曲の飾りを削ぎ落としたのにガツンとくる派手さと印象深さが絶妙にコントロールされた非常にソリッドな楽曲。
音の飛びが大きく、一曲に様々が表情が詰め込まれています。まるで人間が持つ様々な表情のよう。

映画の予告で聴いてからすっかり虜になってしまった一曲です。

凄い。(語彙力の欠如)

03. Teenager Forever

♥ King Gnu official YouTube channnel/King Gnu - Teenager Forever

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ソニー ワイヤレスヘッドホン ウォークマンのCMソング。

曲の爽快さと美しい井口氏のハイトーンの歌声、そしてMVで必死な形相で走る姿がなんとも言えないマッチングを見せる一曲。
そのタイトルにあるようにティーンエイジャーの心を掴む、青臭さのある歌詞が若い人にオススメです。
心の中に溜まり込んだ鬱憤を終盤へ向けて一気に放出するように、青春から成人への間でもがく感覚にも似た焦燥を感じます。 

King Gnuは曲の構成が神がかってるんですよね。
ここまで正攻法で攻めたロックを作っておいて、アウトロこんなにガツンと切っちゃいます?と言う。

凄い。(語彙力の欠如)

04. ユーモア

「ロマンシング サガ リ・ユニバース」のCMソング。

『Teenager Forever』とは打って変わって大人な雰囲気の今作。
今まで青臭い青春をあんなにも必死な形相で歌い上げていたのに、トラックが変わった瞬間に世界線が切り替わります。
夜にロックグラスでウイスキーでも飲みながら聴きたいメロディーラインに、アルバム序盤から早速King Gnuの振り幅の大きさを実感します。

瞳を閉じてこの楽曲を聴くと、決してその曲の情景が明確に浮かばないことに驚きました。
そこまで歌ってないんです。空が暗くて、とか、ライトの光が輝いて、とか、情景の描写が欠落しているんです。
それなのに、分かる。なんとなく分かる。その歌詞の世界観が、本能と精神で分かる。
人生ってそう言う危うさがあるよね、なんて共感してしまう。

凄い。(語彙力の欠如)

05. 白日

♥ King Gnu official YouTube channnel/King Gnu - 白日

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日本テレビ系土曜ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」主題歌。
この曲が2019年、King Gnuを世に知らしめた代表曲と言って良いのではないでしょうか。

繊細な井口氏の曲入りの歌声からBメロの常田氏のしっかりと地に足のついた歌声、そしてサビのユニゾンまで、リスナーの心を掴んで離さない不思議な力があります。

そして誰もが心中にあるであろう葛藤の確信をついた歌詞。
メロディーに乗るその言葉の一つ一つ、歳を重ねる過程で感じたことはあるであろう絶望と虚無と希望が絶妙な割合でブレンドされています。
多くの人がこの楽曲の虜になったのではないでしょうか。

よくこんな曲作れたな。凄い。(語彙力の欠如)

06. 幕間

『幕間』と名付けられたこのインストゥルメンタルは、そのタイトルさながら序盤から中盤にかけた張り詰めた緊張感が解けた刹那と、この後に続く期待を体現したかのような楽曲です。

「なくても問題ない」けど「あると良いアクセントになる」その絶妙な狭間をついてくる曲とも言うべきでしょうか。

凄い。(語彙力の欠如)

07. 飛行艇

♥ King Gnu official YouTube channnel/King Gnu - 飛空挺

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ANA「ひとには翼がある」篇 TVCMソング。

俺らのANA!!さすがANA!!King Gnuの楽曲を使うとはお目が高い!!
筆者はANA好きなんです。実際自分が航空機に乗る時はJALが好きなんですけど(なんじゃそりゃ。笑)、なんと言ってもフィギュアスケートの大ファンなので、あの羽生結弦選手を早い段階からサポートしてくださった企業としてそれはそれは日々敬意を持って過ごしています。
お目の高さは日本企業一!と言う、どうでも良い余談(笑)。

前半の楽曲にはなかった正統派ロックチューン。
今の日本ではおおよそウケないようなド正面から挑んだ一撃必殺のロックがとてつもなくかっこいい。
ニルヴァーナの『Smells Like Teen Spirit』のように、魂を揺さぶる楽曲に仕上がっています。

心を高揚させる印象的なギターリフと力強いメロディーライン。
筆者はこの曲を聴くと、ボクサーが自身の拳を天に高く突き上げながらリンクに上がる瞬間が脳裏を過ぎります。
魂を鼓舞するようなリフ。ぴったりじゃないですか?

凄い。(語彙力の欠如) 

08. 小さな惑星

Honda「VEZEL」CMソング。

お洒落でPOPで軽快なロックサウンドに乗せた日常の閉塞感を歌う言葉たち。
そんな中垣間見える、ありきたりで他愛もない情景がなんだか特別な瞬間に思えるような、何のギミックも用いずにそれを演出してしまうセンスに思わず舌を巻いてしまいました。

このバンドはなんでもない日常の中にある、ちょっとした気付きをまるで特別かのように演出するスペシャリストだな、と思います。

そして特別印象に残るメロディでこそないのに、ラストのカットアウトが強い印象を残し、この楽曲の存在を前面に押し出してくる。

凄い。(語彙力の欠如) 

09. Overflow

ジャジーなエッセンスを含んだミクスチャー・ロック。 
サビで一気に花開くような楽曲の構成と井口氏の美しい歌声が、ここまで彼らが見せた様々な表情により一層アクセントを添えてくれます。

爽やかな楽曲の雰囲気とは裏腹に、女々しさを含んだ歌詞。
欲求と執着の狭間でもがくみっともなさを、ここまで綺麗に、そして軽快に表現することが果たしてKing Gnu以外に出来るでしょうか。

凄い。(語彙力の欠如)

10. 傘

♥ King Gnu official YouTube channnel♪/King Gnu - 傘 OFFICIAL AUDIO

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ブルボン「アルフォート」CMソング。

軽快で”イマドキ”なミクスチャー・ミュージックに乗った気怠い退廃感が筆者のお気に入りの一曲です。

『Overflow』で一見純情のようでありつつも男のみっともなさを歌っていたかと思えば、『傘』では女のこざかしさと絶望を歌っている…かは分かりませんが、そんな気がします。

King Gnuの楽曲はそれぞれこの世界の時間軸に行き着くまでの過程は一切描かれていませんが、その結末だけでドラマチックに演出してしまう力があるんですよね。
他の多くのアーティストの楽曲は、こんなことがあって、君とこんな道を一緒に歩いて、今はこうなてしまって、自分はこう思っている、と明確に説明されているのに、それがないんです。

嘆かわしい結果と、自嘲と。
今ある状況を一瞬切り取っただけでドラマを作ってしまうその才能。

凄い。(語彙力の欠如) 

11. 壇上

常田氏の独唱という、アルバムの中で異彩を放っている一曲です。

スタイリッシュに仕上げられた曲たちが目まぐるしく続いたその終焉の時に、5分40秒と最も長く泥臭く、ここまで隠していた想いをストレートに全て詰め込んで語りかけるような歌声がスピーカーから流れます。
この曲を最後に聴かないとこのアルバムは完成出来ないと言い切れるような、そんな決意を込めた一曲と言って良いのではないでしょうか。

変わらないものと、変わってしまうものと。
その歌詞はどことなく常田氏の、そしてKing Gnuの今の気持ちなのではないかと連想させる一曲です。

凄い。(語彙力の欠如) 

12. 閉会式

全ての感情を落とし込んで結ぶような、このアルバム最後のインストゥルメンタルです。
人々の湧き上がる熱を包んで終焉を告げるヴァイオリンの音色と歓声、ざわめき。
そして、全てが終わります。

この曲を聴くと、あぁ、終わったんだな…と放心にも似た感覚に襲われます。
やはりシャッフルで聴くのは勿体無いアルバムです。

凄い。(語彙力の欠如) 

 

以上、King Gnu『CEREMONY』の全曲レビューでした。

全12曲37分の間に散りばめられた珠玉の楽曲たちについて語る中、素晴らしいものは所詮活字でなど表現できないのだと実感させられました。
何度語彙力を失ったことか。

それでも筆者はこの言葉を繰り返さずにはいられないのです。

凄い。(語彙力の欠如)