書いていなかったので今更ながら書こうかな。
2015年4月29日にバンドが解散し、以降沈黙を続けていたヴォーカリストSHINが、ついにソロヴォーカリストとして2017年8月23日に1stアルバム『Good Morning Dreamer』をリリースしました。
バンド時代はポップ・ロックやハードロックにラップを融合するなどミクスチャー・ロック路線でしたが、ソロの楽曲はガラっと変わってエモーショナルでラウドロック寄りの楽曲が多い印象です。
本人が「ストレートなギターロックをやりたかった」と公言している通り、今現在主流となっているDTM要素を取り払い、シーケンサーに頼らずにストレートなバンドサウンドでその世界観を表現しています。
ここでふと脳裏を過ぎったのが、人気バンドSEKAI NO OWARIのヴォーカルFukaseさんが「炎と森のカーニバル(2014年リリースのシングル)」のインタビューで語った言葉です。
EMTG:そういう音の探求まで含めて、SEKAI NO OWARIの日常になってる感じがしますね。
Fukase:そうですね。結構、外界に触れないでここまで来たから。他のバンドを見てると、「今時、まだギター使ってんの?」とか思うし、「まだギター・ロックやってるんだ?」って思うし。自分たちはそれとは全然違う方向性だから、何とも思わないけど……でも、俺は寂しがり屋だから、自分の音楽がずっと残っていったらいいなと思う。イギリスのロックを真似してるような音楽をやってたら、長い間残ってくれないだろうなと思うから。「自分らしさ」って何だろう?っていうのを追求して、未来永劫残ってくれるものを作っていくためには、やっぱりオリジナリティが不可欠で。でも、奇を衒ってるだけでは人の心は掴めないんで。俺たち自身が楽しんで「いいね」って言いながら進んでいくことが重要なのかなと思ってやってますね。
(SEKAI NO OWARIニューシングル「炎と森のカーニバル」インタビュー | スペシャル | EMTG MUSIC より引用)
随分と波紋を呼んだので記憶に残っている発言です。
この発言について今更どうこうと論争を繰り広げるつもりはありません。こう言ったことは個人の考え方や感じ方、趣味の違いであり、個人が感じる可能性の大小の差であると思うからです。古いことをやっていてもダメだと言うことについては全く同じ見解ですし、自分が表現したいサウンドを追及する姿勢はミュージシャンとして至極当然のことだと思います。
ただ筆者が思うのは、“時代にそぐわない”男性ソロヴォーカリストだったり、“時代遅れの”ギターロックを敢えて今やることの意味と言うのは、ただ単にカッコイイとか好きだから、と言った理由だけでは無く、演者がそこにまだ新たな可能性を感じているからではないでしょうか。
ソロであることに関して言えば、勿論バンドの方がメンバーが多いのだからその分引き出しも多く、より可能性があるとも考えられますが、メンバーが多いからこそ表現したい世界観をどこかの軸に合わせなければならない窮屈さもあると思いますし、それによって自分の表現したいものが狭まったり、押し殺していかなければならなくなることもあると思うんです。そう言った煩わしさを排除して、「自分自身」の可能性を拡げていくためには、ソロという形態を取ることもひとつの手だと思います。
ギターに関しても、恐らくFukaseさんはDTMに対してギターは音階や音の組み合わせの法則から限界のある楽器だと考えているのでしょう。でも、DTMはその時々の感情を乗せて奏でるには至極不向きな表現手法だと思います。ギターロックの可能性のひとつは、歌と同様にその時の感情を乗せて鳴らすことが出来、それをオーディエンスがストレートに受け取れるところにあるのではないでしょうか。
少し話が逸れましたが(苦笑)
元ヴィジュアル系バンドのヴォーカリストがギターロックを掲げ、ソロヴォーカリストとして、そして自身がコンポーザーとして創りあげた記念すべき1stアルバムのレビューをご紹介します。
SHIN『Good Morning Dreamer』
配信を除くとソロとして初のリリースとなった今作。
バンド解散後、活動していなかった期間に制作した作品に、新たに追加した『just going true side』等を含んだ全9曲で構成されたアルバムとなっています。
作り手の特徴なのか分かりませんが、SHINくんの作品はとにかく1曲が短い。バラード曲はテンポもあってか4分~5分台ですが、その他の曲は3分台、中には3分無い曲もあります。最初から最後まで通して聴くと「あれ、もう終わってしまった」と思ってしまう程に短いです。不必要な部分をそぎ落としたと取るべきか否か、未だ悩んでいます(苦笑)。
一種独特の世界観を持った人なので、曲構成はもう少し凝ったものを増やしていっても良いのかな、と言うのが個人的な感想です。勿論本人の「ストレートなギターロック」という趣旨、楽曲に込められたメッセージは理解しているつもりですが、CDを手に取る全員が彼の今までの道のり、このCDに込められた熱意とその時間を知っているわけでは無いので、軽い気持ちで「聴いてみようかな」と言う層には若干物足りないと感じられるのではないでしょうか。
この短いアルバムの中になんとなく似た印象の楽曲もあり、そこも残念なポイントのひとつです。
それでも、今の等身大の「SHIN」が出せる力を全て使い切った良作であることは間違い無いですし、彼の大きな魅力である歌唱力には圧倒される作品です。
♥ Zany Zap official/SHIN 1st ALBUM「Good Morning Dreamer」発売告知 全曲視聴動画
(2020.1.3修正)
動画が削除されていたためリンクを外しました。
01.jack the ripper
♥ Zany Zap official/SHIN「jack the ripper」【OFFICIAL LIVE MV】
2017年4月18日に配信リリースされた曲。
アルバムタイトルでもある「Good morning dreamer」と言うフレーズから始まる作品。
間違いなくこのアルバムイチのキラーチューンでしょう。
ガツンとくるメロディライン、疾走感のあるアップテンポなエモさが光る一曲。
ロキノン系が好きな方にも好まれるんじゃないかな。むしろそういう方たちに名刺代わりとして聴いて欲しい曲です。
AメロとBメロの中低音から、サビで一気に力強く突き抜けるような音域に上がるヴォーカルもこの楽曲の聴きどころ。
サラッと歌っているように聴こえるけれど、サビの音の飛び方がかなりエグい。
確かこの曲を試聴で出した時(2016年9月)にはここまで音が飛んでいなかったんですよね。一個目の飛び(憧れた空、のところ)が無かったはず。
とても印象に残りやすいサビです。
楽曲のタイトルは1888年にイギリスで連続発生した猟奇殺人犯の名前である“切り裂きジャック”。
活動していなかった期間、自分の叶えたい夢がまるで殺人鬼に思えたというSHINくんの気持ちが込められた歌詞とタイトルです。
明るく爽快なロックといった曲の印象とは裏腹に、絶望を歌った歌なんですね。
そんなギャップも楽しんでみては如何でしょうか。
02.why not?
最初にタイトルを見たときは日本語タイトル「なんでやねん」かな、と思ったけれど、曲を聴いたら決してそんなノリでは無かったです(笑)。
重低音の効いた重めラウドロック。
Aメロのノイジーなギターと、イントロやBメロのギターとベースのユニゾンが内臓にズシンと来るカッコイイ一曲。
前編英詞でそれがうまくハマってるな、といった感じ。
これきっと日本語だとだいぶ雰囲気が変わってしまうと思うんですよね。
ヴォーカルもバンドサウンドと同じように攻撃的でひずみを効かせた歌唱が特徴的。
パワフルでライブ栄えする楽曲です。
曲の持つズッシリ感がくどくないのは、SHINくんのハイトーンのヴォーカルが良い具合に中和させているからでしょう。
筆者的にはヘドバンするのに良い曲だと思うんですよね。気持ちよく振れそう。
誰もやってないけれど(苦笑)。
どなたか是非チャレンジしてみてください。
ちなみに筆者は頚椎を痛めているので振れません(涙)。
03.just going true side
♥ Zany Zap official/SHIN「just going true side」【OFFICIAL MUSIC VIDEO [Full ver.] 】
今作のリード曲で、SHINくんがこのアルバムに収録するために書き下ろした一曲。
明るい曲調で、歌詞もこのアルバムの中で一番光を感じるものとなっています。
アニメの主題歌に良さそうな印象。
これまでの2曲とは違ってポップロック寄りなので、前のバンドの雰囲気に近い楽曲ではないでしょうか。
既存のファンは聴きやすいのではないかと思った一方、これまでのエモーショナルさがあまり感じられないため、そっちを期待していた人は「あれ?」となるのではないかと。
いずれにせよ振り幅はあった方が良いので、これはこれで完成度の高い一曲だと思います。
サビの伸びやかで高いキーのヴォーカルが聴いていてとても気持ちが良い。
新たな世界を連想させます。
前のバンドの曲調を求めている人にはオススメです。
04.4444
これなんですよ。この曲の評価が如何ともしがたくて(笑)。
まず、数字の羅列で構成された変わったタイトル。
読み方は「エンジェルナンバー」です。
古より数字には意味があるとされ、“4”は天使がいることを示しているそうなのですが、そんな“4”が“4つ”あるので天使に取り囲まれている状態、とでも言いましょうか。あなたはひとりではないよ、天使たちに取り囲まれてるよ、というような意味ではないかと…あくまで筆者の解釈なので、SHINくんがどういうつもりでこの「4444」というタイトルにしたのかは分かりませんが。
で、この曲は歌詞カードに歌詞がないんです。
それもその筈、インストルメンタルなんです。本人がそう言い張るんです(笑)。
そもそもインストルメンタルの定義ってなんだっけ?と調べたのですが、「歌詞や歌唱のない、演奏だけのもの」とのことで…いやいや、思いっきり歌ってるがな!!と(笑)。
まぁライブの導入部で披露する曲、ということなんでしょうけど。
登場インスト曲だけど、歌っちゃおう!ヘイ!見たい?どんな風に感じてる?と、ざっくりそんな曲。全英詞です。
それで如何ともしがたい理由というのがですね、サビ部分の音の展開が『why not?』に似てるんですよ(むしろ向こうがこっちに似ているのか…?)。
初めてライブで聴いたときも「あれあれ?」ってなったんです。それで改めて音源で聴いてみてもやっぱり似てる。
よくコレ同じアルバムに入れたね?
SHINくんの歌声って良くも悪くもどの曲も同じように聴こえるところがあるので、もっと曲に個性を持たせた方がいいんじゃないかなぁ…と。
この曲自体はライブの導入部にピッタリの、テンションが上がる曲で好きなんですけどね。
05.WEAKEND
今作に2曲収録されているバラード曲のうちの一曲。
“WEEKEND” (週末)ではなく、“WEAKEND”。SHIN語です。
さしずめ「弱さの終わり」と言ったところでしょうか。
後ろ向きの心に芽生えた決意と使命感に溢れた歌詞に、バラードにしては感情のままに力強く歌い上げているヴォーカルが印象的。
特にラストの「もう一度歩きだすよ」の歌声が胸に突き刺さります。
バンドが解散してからどうにも前に進めなかった時、自分を奮い立たせるために書いたのかな、と推測できるような楽曲です。
高い歌唱力を存分に活かしたバラードは聴き応えバツグンです。
曲中や間奏のファルセットも美しいので、そんなところも聴き込んでみると曲の中に気持ちがより溶け込んでいくような感じがします。
06.TERRITORY
この曲は前のバンドが解散し、その約3ヵ月後に「SHIN」ではなく「WHITE JUDAS」としてV-NATIONに出演した際に、一番ラストに披露された楽曲です。
それだけに他の楽曲とは少し毛色の違った、どことなく郷愁を感じるロックに仕上がっています。
『jack the ripper』や『why not?』のようなエモさはないのですが、ズッシリとした音と言うよりは美しくストレートなバンドサウンド。
音の粒ひとつひとつが曲の世界観を巧く表現していて、視界に描写が拡がる様な感覚を覚えました。
AメロよりBメロはキーを落として作られているので、より一層サビ前からサビに向かって聴衆を惹き付けるつくりになっています。
個人的にこの曲がアルバムの中でも上位に気に入っているだけに残念だったのが、この曲単純に構成だけ見ると1番しかないんですよね。
2番欲しかったな~、と。
歌詞もとても綺麗なんですよ。それだけにスッと終わってしまって、曲終わりにはもっとこの曲の郷愁感に浸りたかったのに!と感じてしまうほど。
アウトロの最後が歌唱で終わるので、余計にそう感じてしまうのかも知れませんが。
07.dirty hurry
この曲も『jack the ripper』同様、アルバムリリースの4ヶ月前に配信リリースされた曲。
アップテンポでパンチの効いたロックナンバーです。
タイトルの『dirty hurry』は“dirty harry syndrome”(ダーティハリー症候群=緊張状態の新人警察官が陥りやすい精神状態の俗称。正義感のあまり過度の暴力をふるって、それを「正義の鉄槌」として正当化する精神状態のこと)から捩ったSHIN語でしょうか。
アルバムリリース後に歌詞カードを見て驚いたのが、英語だと思って聴いていた部分が、実際は殆ど日本語だったということ(笑)。
SHINくんって何言ってるか分からないことも多々あるのですが、この曲はピカイチに分からないです。
正直「愛を唄うその前に嘘だけここに置いていったらどう?」「レッテルはって止まるよりマシさ」のところは歌詞を見ないと完全に何言ってるか分かりませんでした(笑)。
曲入りのノイズと追い立てられる掛け合いのようなAメロが、歌詞の心情にうまくマッチしています。
歌詞を見ると陽気なメロディーラインとは少し掛け離れたガムシャラ感、不安を振り切って無理に前向きに走り出す人間の危うさみたいなものが感じられるので、そんなギャップにも注目の一曲です。
08.restart
アルバムの中でも明るく前向きな印象を受ける、アップテンポのポップロックナンバー。
正直この曲がこのアルバムのリード曲になるんじゃないかと推測していたんですよね。
それくらい楽曲が与えるインパクト、潜在のパワーがある曲だと思っています。
何と言ってもライブ栄えするメロディーラインがこの曲の良いところ。
良くある“ライブの終盤で演奏して銀テープがパーン!と飛んできそうな”曲、と言ったらイメージして貰いやすいでしょうか(笑)。
要所要所に盛り上がるポイントが詰め込まれていて、「are you ready?」のところなんか特にそうです。
それだけ疾走感がある爽快な曲なんですが、その分とてもコンパクトに纏まっていて、その時間はなんと2分37秒と言う短さ。
コンポーザーがヴォーカリスト故なのかも知れませんけど、グッと惹き付ける間奏があったらもっと完成度が高くなったんじゃないかな、と思います。
アルバム全体を通してワクワクする間奏が少ないんですよね。
たとえばラスサビ前にグっと掴んでくるド派手なギターソロだったりとか。
そういう盛り上げポイントを削ぎ落としてシャープにコンパクトに纏まっているのが、狙ってなのか何なのかこのアルバムの特徴です。
この曲はライブで巧くアレンジしていくと、もっと聴衆を掴める曲に化けるんじゃないかな。
09.2015.4.29
時計の針の音から始まるバラード曲。
時間を戻しているのか、進めているのか、まずはそこから個人個人で感じ取って考えて欲しいです。
タイトルの読み方は(多分)「ニーゼロイチゴーヨンニーキュウ」。
前のバンドの解散日を冠した曲であり、アルバムの中でもあらゆる観点から異色のナンバー。
特に他の曲と異なっているのは、その歌唱法。
ソロになってからはどの曲も感情の趣くままに歌っている印象が強いですが、この曲はクセを取り払ってフラットに、シンプルに。
バンド時代の歌唱にとても近い歌い方をしています。
そんな中、最後の「この世界でもう一度。」だけは心情を全てぶつけた力強い歌い方をしていて、曲の中で非常に際立って聴こえます。
過去を顧みない生き方もあると思いますが、過去があったからこそ今の自分がある、そして今が未来に繋がっていくということを具現化している曲のように感じます。
かつてのバンドのファンだった方は勿論、その時代を知らなかった方にもアルバムを通して最後に聴いて欲しい一曲です。
是非歌詞を見ながらどうぞ。
以上、SHIN『Good Morning Dreamer』の全曲レビューでした。
ストリングスを排除してシンプルに作り上げているので派手さは無いかも知れませんが、等身大の「SHIN」を感じられる一枚となっています。
エモーショナルだったり、かと思えば郷愁的だったり、はたまた懐疑的だったり、攻撃的だったり。
活動が止まっていた2年間が詰まった作品となっているので、バンドのファンで「ソロはちょっと…」と言う方にも是非一度聴いてみて欲しい作品です。
様々な可能性を感じられる楽曲たちであると共に、自分自身の今まで、そしてこれからの歩みに重なって受け取るものが多い作品だと思います。
そんな音楽の醍醐味を、このアルバムで感じてみては如何でしょうか。