GOOD MORNING DREAMER

各種レポート(ライブ、旅行など)、会場ガイド、考察、コラム、他 雑記。主にSHINさんの話題が中心です。

【Live Report】2022/12/3 SHIN ONEMAN LIVE 「ECHO」 @ Spotify O-EAST

「もうダメかと思った」―――最近彼の口から何度か吐いて出た言葉だ。

2019年12月22日、当時のTSUTAYA O-EASTでSHINくんのワンマンライブが開催された。SOLD OUTこそしなかったものの、ソロ活動3年間の集大成と銘打ってステージに立った彼の表情はとても希望に満ち溢れたものだった。

あれから3年が経ち、世界は変わった。

そして再びSpotify O-EAST(ネーミングライツ期限の関係で、この3年の間に世界だけでなくハコの名前まで変わってしまった)のステージにSHINくんが立つ。

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彼は昔から「憧れのステージはO-EAST」と言ってた。
1991年、東京で初となる1000人超えのキャパシティを誇るライブハウスがオープンした。それが当時のON AIR EAST、現在のSpotify O-EASTだ。「夢は大きく武道館」…多くのアーティストがそうであるように、SHINくんもソロ活動を始めた当初から武道館や東京ドームのステージにソロのワンマンで立つことを目指しているだろう。だが、まだ何も知らなかった頃の歌が大好きだった少年にとって、憧れのステージは東京に出来た大きなライブハウスだったのだ。

何度もこのステージには立ってきたけれど、ある意味でこの日がSHINくんが目指すO-EASTの初舞台だったのかもしれない。
自分ひとりの力で集客し、その会場にいる全員の想いを背負って歌う。
SOLD OUTを果たしたこの日のO-EASTは、少年時代からの「憧れ」を超えてまた新たな目標へ歩みを進めるための大事な第一歩だったに違いない。

そんな公演に足を運んできたので、久しぶりに書き記そうと思う。

尚、記載のMC等はいつも通り記憶頼りのニュアンスで書いているので、実際とは異なることをご了承願いたい。

Spotify O-EAST

会場についての説明は一旦割愛。
後日追記出来たら追記したい。

 

SET LIST

-SE-

01. アダマント
02. ECHO

-Short MC-

03. paradox
04. jack the ripper
05. WEAKEND
06. SHIRABE
07. GLAMOROUS SKY
08. just going true side
09. 6inchの凶器
10. RE:

-MC-

11. 2015.4.29

〜ENCORE〜

-MC-

enc1. センターオブトーキョー
enc2. diluculo
enc3. AZALEA

-MC-

enc4. 花
enc5. From the beginning

〜W ENCORE〜

Wenc. jack the ripper

〜Farewell〜

 

Live Report & 感想

本編

若干開演時間が押して客電が落ち、ギギギギギ…と鉄製の扉を開けるような音が会場内に鳴り響く。ハードなデジロック調のSEをバックにオーディエンスは高まる気持ちをハンドクラップに乗せ、いっぱいの期待感に満ちたステージにサポートメンバー、SHINくんの順で姿を現した。

この日のサポートメンバーはギターにYOUSAYくん、ドラムにKEN'ICHIくんといういつもの面々に、ワンマンでは初めてキーボードの森谷優里くんを加え、そしてベースはDAICHIくんの予定だったが直前に新型コロナウイルス陽性となったため、ピンチヒッターのベーシスト(非公表)という心強い4名。DAICHIくんのお知らせを聞いた時はどうなることかと思ったが、逆にそれがステージ上に良い形での緊張感を与えたのか、彼らはまるで最初から予定していたかのようなサウンドでSHINくんの歌声に華を添えてくれた。

「EASTー!始めようぜ!!拳で来い!!」

SHINくんの叫びでオーディエンスが拳を突き上げる1曲目は『アダマント』。
まだ音源としてのリリースこそないが、YouTubeでMVが公開されている、ゲーム『METALIC CHILD』のタイアップ曲だ。

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背後の特大モニターにはMVの世界観さながらの近未来的な映像が流れ、その前で攻撃的にフラッシュする赤い照明に照らされ鋭い眼差しで歌い上げるSHINくんという構図はまるでそのままMVから飛び出してきたかのよう。
このMVのSHINくん、筆者にはなんとなくラスボスに見える。ひょっとしたら真逆で悪者を倒しに来たヒーローなのかも知れないが、この日のステージで『アダマント』を歌うSHINくんも自分を倒しに来た者たちを嘲笑うように挑発する攻撃的なラスボスのようだった(始まったばかりでもうラストかよ、と言うツッコミは無しで。笑)。
アウトロでは「かかってこぉぉぉぉぉぉぉい!!!」と高くシャウトをし、会場のヴォルテージを一気に引き上げる。序盤からこんな風にシャウトするのはソロになってから初めてではないだろうか。

2曲目は今年配信リリースされた『ECHO』。
今回のLIVEのタイトルにもなっている曲であり、ワンマンでは初披露となる新曲だ。

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この日の衣装も『ECHO』のMVで着用していたもの。
合間合間に「いくぞー!!」とオーディエンスを煽りまくり、俺についてこい!と言わんばかりにステージ上で熱いパフォーマンスを繰り広げ、会場も自然と空気がまた一段熱くなった。
頭を振り乱しながら歌うSHINくんは序盤から随分と加速モードだ。

「O-EASTへようこそ!」

激しい2曲を歌い終え、短いMCを始める。

「今日この場所に来てくれたみなさんのお陰で無事SOLD OUTしました。ありがとうございます!そして今日は体調不良で来られなくなったDAICHIくんの代わりに、彼がサポートで来てくれました!」

被っていたパーカーのフードを取り去ったベーシストの正体が明かされ一気に湧き上がる会場に、「あのー、今日は俺のワンマンなんだけど(笑)」と笑いながら言うSHINくん。

「今日はここにいるみんなとの奇跡の出会いの夜です!ぶち上げる準備はいいか!?EAST、かかってこいよ!!」

「今揺らさなかったらいつ揺らすんだ?いくぞEAST!!スリー、ツー、ワン、ジャンプ!!」

叫ぶような激しい煽りで3曲目『paradox』、そして『jack the ripper』へ。赤く照らされていた照明は青に変わり、背後の大スクリーンにはステージ上のSHINくんの姿が映し出される。シャウトに近いような煽りを繰り返しながらもブレずに力強く、そして綺麗なファルセットを駆使した歌声は以前よりもまた一層上手くなったように感じた。
そういえばO-EASTに向けて久しぶりにボイストレーナーのりょんりょん先生に師事していると言っていたか。確実にその効果が出ているように思う。

「今日この瞬間がみんなにとって「明日へ進もう」と思えるものになりますように。聞いてください。『WEAKEND』」

深い眠りから覚醒するような、力強いKEN'ICHIくんの一打でオーディエンスの集中が一気に音に集まる。今までのアッパーソングの連続から一気に空気を変え、真っ直ぐに前を見据えてバラードを歌うSHINくんの姿に釘付けになった。照明は青から金色に輝きを変え、まるでセピア色のアルバムを見ているかのような感覚だ。
思えば出だしの2曲で「今」のSHINくんを表し、MCを挟んでから時を遡って「SHIN」というアルバムを1ページずつめくっているところなのかも知れない。

アコースティックギターを手に『SHIRABE』へ。曲の序盤、ギターを奏でながら語りかけるようだった歌声は、サビにいくにつれて力が込められてゆく。
さらにアコギをストラトキャスターへ持ち替え、次の曲はお馴染みのカバー曲『GLAMOROUS SKY』。オーディエンスはじっとステージを見つめていた時間から一転、ハンドクラップや拳を突き上げてステージからの熱に応える。ミドルバラードの感情を込めた歌い方から打って変わり少しパンキッシュに歌い上げる姿に表現の幅の広さが窺える。筆者も初めてこの曲を披露した時を思い出しながら手を宙空へ突き上げた。

「EASTー!!まだ行けんのか?まだ行けんのか?後ろ行けるか??真ん中、行けるか??最高の景色を見せてくれ!『just going true side』!!」

『just going true side』『6inchの凶器』とアッパーソングで畳み掛け、会場のヴォルテージがどんどん上がっていくのを肌で感じる。SHINくんはライブハウスにしては広いO-EASTのステージを横いっぱいに歩き回り、上手(かみて)も下手(しもて)も誰ひとり休憩させないとばかりに満遍なく煽りながら歌う。楽器隊もSHINくんの勢いに負けじとばかりに激しいPlayの応酬で歌声に応えた。ワンマンライブでは久しぶりにタオルを手にしたり、頭を目一杯振るSHINくんの姿に否応なくテンションが上がる。会場をはためくタオルを見てSHINくんは少し目を細め、満足そうな表情を浮かべていたのが印象的だ。

「みんなのお陰で、今日、歌えました!」

歌の最中そう告げるSHINくんの言葉を受け、会場が多幸感に包まれる。

「この奇跡の夜にこの曲を贈ります。」

有観客のワンマンでは初披露の『RE:』へ。

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ステージ上のパフォーマンスも一層熱を帯び、SHINくんの表情もニコニコになる。サポートメンバーと背中を合わせて絡みながら熱唱する姿に胸が熱くなった。
この曲は元ViViDのベーシスト・イヴ(現MTR)くんが作曲を手掛けた楽曲だ。イヴくんはViViDのメインコンポーザーの一人であり、彼の作るキャッチーな楽曲に代表曲となったものも多い。筆者はViViD時代からのファンなので、イヴくんの曲を聴くとたとえ新曲でも「これこれ!」と言う気分にもなるし、SHINくんのステージパフォーマンスにはピッタリの曲調に感じる。この日もここまであまり披露されなかった曲でありながら、なんだか懐かしいような、妙にしっくりとくる感覚だった。

熱いパフォーマンスを終え、キーボードの音色に合わせてSHINくんが語り始める。

「今日は本当にありがとう。3年ぶりにO-EASTのステージに立ちました。別に俺はO-EASTと戦っているわけじゃないけど、音楽を始めた頃の自分の目標がこの会場だったので、どうしても自分の納得いく形でやりたかった。今日はみんなのお陰でそれが叶いました。ありがとう。
3年前このステージに立って、その後すぐ、世界にコロナウイルスが流行りました。
もうダメかと思った。本当にもう、終わったと思った。」

SHINくんの言葉にどんどん感情がこもり、切羽詰まった表情になる。

「明日歌えなくなるんじゃないかって、そんな日がすぐ目の前に来ているのを感じた。挫けそうだった、マジで。
だけどその時に、今まで精一杯生きてきて良かったって思ったし、またライブできる日は来ないかも知れないけど、それでも目の前にある今を精一杯生きようって思った。
みんなをガッカリさせてしまったこともあったかも知れないけど、俺は歌い続けたかったから3年間必死に走り続けてきました。
そんな中で、俺を6年間支えてくれた事務所、所属が変わっても手を差し伸べてくれる先輩、いつもバンドとして支えてくれるメンバー、変わらず傍で支えてくれる家族、親友、そして目の前にいるみんなが…俺の希望!」

SHINくんは堪え切れず涙が溢れてきた様子で、一度マイクから顔を逸らす。

「全然泣いてないよ。今日ここをSOLD OUT出来たから、来年はもっと大きなステージに挑戦します。そして俺は武道館へ行く!!」

涙声のSHINくんの口から出た強い決意の言葉を大きな拍手が包み込んだ。

「……泣いてたら歌えないからちょっと待って」

ついさっき泣いてないよ!とか言っていたのに(笑)。

「みんながいなかったら俺はここにいないし、みんながいてくれたから今日はここに立てた。今日までの想いとこれからの未来を込めて歌います。最後に聴いてください。」

ピアノの音色に乗せて『2015.4.29』を込み上げるもので震える声で歌い出す。
たったひとり、幕がかかったステージでこの曲を歌った6年前の情景が対比として脳裏をよぎった。6年間、そしてその前も…本当に色んなことがあったのを思い起こさせる曲だ。2番のサビへ向けてどんどん感情を込める、というよりはぶつけるようなSHINくんの歌声に、筆者も自然と涙が流れた。
特に印象的だったのは、「この季節にも君がいない」の歌詞を「この「景色」にも君がいない」と変えて歌っていたことだ。
SHINくんは度々その時の自分の気持ちに合わせて歌詞を変えることがある(たまにはただの歌詞間違いをしているだけかも知れないけれど。笑)。今回「季節」を「景色」に変えたことの真意は本人しかわからないが、筆者はその言葉にこんな想いを感じた。
6年前、「ずっと応援しています!」と言っていたファンが6年後の今、姿を見せなくなったこともあるだろう。歌い続けてさえいればまた会える、度々そう言っていたのを思い出す。今、SHINくんがO-EASTのステージから見ている景色はきっとかけがえの無い「今」の景色ではあるけれど、このステージに再び立つ過程で思い描いていたものと少しずつズレていったものもあったのかも知れない。そして、先ほど言葉にした「武道館」まで到達すれば、きっと今の景色に失われた「君」が戻ってきてくれると、そう信じているのでは無いだろうか。

「みんながいたからここまで来れました。」

歌い始めに告げた言葉を、アウトロの名残に再び重ねる。

「ありがとう、SHINでした。」

この日は様々な感情を隠すことなく見せていたSHINくんだったが、この日一番の優しい表情でそう言い残し、ステージを後にした。
オーディエンスは割れんばかりの大きな拍手でSHINくんを見送り、本編が幕を閉じた。

ソロとしての始動ライブ以後、MCであまり「武道館」について名言してこなかったSHINくんだったが、ようやくその目標を口に出来るステップに来たのだろう。
今いるファンも、これから出会うファンも、そしていなくなってしまったファンに向けての新たな「約束」の地、それが「日本武道館」なのだと実感する時間だった。

アンコール

本編が終わり、アンコールを求めるハンドクラップが会場に広がる中、ファンクラブツアーのお知らせがモニターに映し出された。
新型コロナウイルスが流行してから3年間、ソロとしてツアーを行わなかったSHINくんの久しぶりの東名阪ツアーの発表に、オーディエンスの気分も再び高揚する。

ファンクラブツアー予告の映像が終わった後、SHINくんはこの日発売となったグッズのロングTシャツの上に黒いファーコートを肩にかける装いで再びステージに姿を見せたが、すぐにコートを脱いでドラム台の前へ置いた。

コート脱ぐの早っ!
と思った人は少なくないだろう(笑)。

つい先ほどまで半泣きだったSHINくんも、すっかりニコニコ顔でアンコールのMCへ。

「アンコールありがとうございます!ファンクラブツアーが発表になりました。名古屋と大阪は3年ぶりで不安しかないので、ぜひ来てください!」

恐らくSHINくんは「埋まらない心配」をしているのだと思うが、こちらからすると「チケットが取れない心配」しかない。

「それでは、今日一緒に演奏してくれたメンバーを紹介します!」

モニターにKEN'ICHIくんが映し出されると、ドラムセットにそっと隠れようとする。

S「キミからやで!ドラム、KEN'ICHIくん!今日はありがとう!楽しいね!」

マイクで喋るの?といったジェスチャーをするKEN'ICHIくん。SHINくんの語り掛けにマイクを手に取る。

K「楽しいでっす!」
S「ファンクラブツアーの意気込みを聞かせて」
K「意気込み?来年でしょ?」
S「来年です」
K「来年のことは来年にならないとわからないです」
S「確かにそれはそうだけど(笑)」

爆笑。

S「次、ギター、YOUSAY!なんかTwitterで言ってたよね、ハンドクラップは高めが嬉しいって」
Y「そうだね〜〜〜」

それに応えて高い位置でハンドクラップをするオーディエンス。

S「おっ今日イチ高い」

それもどうかと思うが(笑)。

Y「もう満足だ」
S「イヤイヤ満足するなよ、これからだろ!」

そう、SHINバンドはこの空気感だ。
このぬるっとしたやり取りに懐かしさを感じる(笑)。

Y「ファンクラブツアー、ね」
S「はい」
Y「頑張ってね!!!!」
S「キミも出るのよ!!!!(笑)」
Y「えっ!!いいんすか!!!!」
S「いいんすよ(笑)」

続いてキーボーディストの紹介へ。

S「キーボード、優里さん!この間からサポートしていただいてます。優里さんのピアノがあると、自分の歌に自身が持てるんですよね」
優「さっき、めちゃくちゃ良かったなって」
S「良かったですよね!!」
優「なんか、SHINくんと対決してる気持ちでやってるんだけど」
S「えっ、対決してるつもりだったんんですか!?(゚ω゚)」
優「気持ちはね」
S「あっ、じゃあ僕も次からそういう感じで」
優「ははははは」
S「ははは……まだいまいちキャラが分かんないんですけど(笑)」

そこの気持ち、やる前に合わせないのか(笑)。

でも優里くんが言っていたその「対決してる気持ち」は分かる気がする。ピアノとヴォーカルのセッションなんかはガチンコ勝負感があるし、特に巧い人同士であればある程「そっちがそう出るならこっちも」とお互い刺激しあって相乗効果で音がより良いものになっていくことも多いので、きっとそういう意味での「対決」なのだろう。

そして、ピンチヒッターのベーシストの紹介へ。
DAICHIくんから2日前に発熱したと電話を受けたSHINくん。ピンチヒッターを彼に頼もうと思うと言った時、なんで彼なの?と訊かれ(誰との会話なのか明言はなかったが、恐らく事務所の人だろう)、自分の大切なステージで安心して背中を預けられるのは彼しかいないと思ったそう。
急遽頼まれたベーシストも、SHINくんからのお願いを一度は断ったものの、一旦顔を洗ってSHINくんのことを考えたら「一肌脱いでやるか」と思ったとか。

流石に譜面を見ながらの演奏とは言え、たった2日でここまで仕上げてきた彼のポテンシャルには驚いた。SHINくんやYOUSAYくんが近寄って来た時は多少演奏がグチャッとしてもしっかりと顔を上げてそれに応えてパフォーマンスをしていたし、ここはきっちりリズム隊で締めるという場面ではKEN'ICHIくんへ視線を向けてアイコンタクトを取るなど、臨機応変に動いてライブを一緒に作り上げようとしている姿に感嘆したし、確かな人選だったと感じた。

「さぁ、そろそろいくかEAST!!さっきも言ってたけど、ハンドクラップは高めで!!今日ここが渋谷で一番熱い夜にしよう!!」

アンコールの一曲目は『センターオブトーキョー』。
SHINくんの楽曲の中で唯一のダンスナンバーだが、コロナ禍になってからすっかりこの曲のフリが無くなってしまったのが非常に残念でもある。
この3年の間に新たにSHINくんのファンになったという方もそれなりの人数を動員していただろうし、そう言った方々は知らないだろうか。当初『センターオブトーキョー』にはイントロとサビに簡単な振り付けがあった。

オルタナツアー時のSHINくんのTwitterより。

一曲くらいフリがあった方がアクセントになって良いし、右、左…とジャンプするのが難しいのであれば、正面を向いたままその場で3回ジャンプしてクラップをしたり「綺麗な羽はためかせ」のフリくらいなら全く問題なさそうなものだが。SHINくんによるフリのレクチャータイムもファンとしては楽しい時間なので、それが無くなってしまったのも淋しい。(そう言えばコロナ以降コール&レスポンスの時間も無くなってしまった。それでなくてもSHINくんのライブは他のアーティストと比べて公演時間が短く曲数も少ないため、こういうちょっとしたお楽しみタイムが削られていくだけでどんなに良いライブでも多少の物足りなさを感じてしまう。)
それでもこの曲では♪ありきたりな言葉で〜「いつまで凌いでんだよ!」と一部歌わずに煽り文句に変えるギミックを加えてパフォーマンスをするなど、遊び心を加えて演奏を繰り広げていた。

このまま勢い良くアンコールを駆け抜けるのかと思いきや、照明が落ちて会場が静寂に包まれる。
SHINくんはアコースティックギターを抱え、マイクを通して静けさを打ち消す強い囁き声でカウントを入れた。

「ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー」

ガラリと空気が変わり、優里くんが奏でるピアノとSHINくんのギターの音色が静寂を揺らす。一瞬自分の脳内の引き出しに無い前奏だったので新曲かな?と思ったが、SHINくんの歌唱が始まると「なるほど」と思った。『diluculo』だ。
この曲は「SHIN」として始動する際、EX THEATERに立つその前に『jack the ripper』等と共に先行公開された曲で、筆者にとっては特別好きな一曲でもある。その当時から音源化を切望していたので、当時1stアルバムに収録するかどうかという話し合いの中で今の事務所の会長さんに「この曲はまだ早い」と言われて外されたといエピソードを聞いた時には悔しくて唇を噛み締めたものだ(笑)。それだけ個人的に強い思い入れがあるだけに、この新たなアプローチでの曲の入り方に心を奪われた。
その歌唱法もウィスパーボイスを織り交ぜながらまるで物語を詠むように歌っていたかと思えば、サビに向けて突き刺すようにがなり声を加えて力強く歌い上げるなど、その振り幅に驚いた。

また、アンコールの構成も秀逸だ。自主制作のMVの印象のせいか、どことなく「夜遊び」感のある『センターオブトーキョー』の後、『diluculo』(ラテン語で「夜明け」の意)―――新たな夜明けを演出する粋な計らい(をしていたのかは分からないが、筆者はそう受け取った)。

ピアノとアコースティックギターで1番を歌い上げることで薄明かりの中で世界が目を覚ましていく様を演出したところで、静まり返るO-EASTに響き渡る目覚めの鐘の音のように激しいシンバルが6発ほど空気を震わせ、ピアノとバンドサウンドとが重なり合った『diluculo』が始まる。先ほどまで空間に響き渡っていた相棒のアコースティックギターをスッと背中に回し、手に持っていたピックを宙空に投げ捨てる。SHINくんが今まで表現してきた世界観の本質であるバンドサウンドに水滴が落ちるようなピアノの音の粒が降り注ぎ、その土壌に拡がった。曲の最後には再びギターを前に抱え、素手でかき鳴らしながら歌う。その姿に新たな道に進む覚悟のようなものを感じた。

そしてゆったりとしたピアノの伴奏で歌うのは『AZALEA』。ピンスポットに照らされ、手を伸ばしながら丁寧に、気持ちを込めて歌う。その語りかけるような歌声に、まるでミュージカルのワンシーンを観ているかのような感覚になった。もちろんSHINくんは元々歌唱力が高いことで有名だったが、特にこの日のアンコールで歌唱したバラードの表現力には一層磨きがかかったように感じた。

ただひとつ気になったのが、『AZALEA』でバンドメンバーが何をするわけでもなくずっとステージに立っていたことだ。
舞台袖へ捌ける程の時間がなかったのでそのままステージに残るようにしたのかも知れないが、いつ演奏に加わるのかと見ていたら結局最後までただ立ったままだったので、たった一曲ではあるけれど袖に捌けてもらった方が良かったのではないかと思う。

渾身のバラードをキーボーディストの優里くんと魅せた後は、ピアノの音色に乗せたMCへ。

「今日は本当にありがとうございます。
ソロになって、独りでは何もできないと言うことを実感しました。
俺のワガママを聞いてくれたメンバー、ここまで支えてくれたスタッフさん、たくさん生意気言ったけど一緒に歩いてくれた今の事務所、これから一緒に歩いてくれる仲間、もう二度と会うこともないと思っていたけど今でもそばに居てくれる仲間、そしてこんな世の中でもここに足を運んでくれたみんな。みんなのお陰で今日はここに立てました。ありがとう。
俺はまだまだ夢の途中なんです。だからこれからも一緒に夢を見てくれますか?
俺は独りじゃ弱いけど、みんながいてくれればやれる気がするから、これからもついてきてください!
最後に、みんなのことを想って作った曲を歌います。今日はありがとうございました。『花』」

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バンドが解散したあの日にも涙を見せなかったSHINくんが、メンバーが泣き崩れて音が途切れても前だけを見据えて歌い続けていたSHINくんが、この日は今にも泣きそうな表情で歌い出す。
ソロとして活動を始める前の空白の2年間にファンのことを想って作ったというこの曲。ひとりひとり違って、ひとりひとりの人生があって、想いがあって、それが花みたいだと思ったと、そう言っていた。

♪ もう一度 あなたに あなたに 会えたね

「会いたい」の歌詞を変え、にっこりと微笑みながらそう歌う。広いO-EASTに集まったオーディエンスひとりひとりの顔を噛み締めるように見つめながら歌えば、2番のサビでどこからともなくオーディエンスの手が上がり、曲に合わせて左右に振り始めた。会場いっぱいに広がるその手を見たSHINくんはサビの最中だったが歌うことを止め、感極まった表情で言葉を告げる。

「ありがとう……キレイ」

その一言に胸が熱くなる。
この日、本当の意味で会場が一体となった瞬間だった。

最後の曲、と言っていたが、恐らくもう一曲演奏するのは既定路線だったのだろう。
『花』を歌い終えると、まだマイクを握りしめたままこう告げた。

「最後に俺のわがままでもう一曲やっても良いですか。ソロで歌うと決めた始まりの曲であり、ViViDの解散の曲…だけど、今日はみんなとの未来の曲として歌います。またここからはじめよう!ラスト、『From the begining』」

ViViDのファイナルライブを彷彿とさせるように、『From the beginning』の前奏が流れ出す。
決意の眼差しでこの曲を歌う姿を見るのは3度目だろうか。
『花』ではオーディエンスひとりひとりの顔をしっかりとその目に捉えながら歌っていたが、今度はモニターに足を掛け、少し遠くを見据えながら一小節一小節噛み締めるように歌っていた。その視線の先に見ている未来は一体どんな景色だろう。
『From the beginning』にキーボードの音色が重なりまた違った世界となってO-EASTの空間へ拡がっていく。まるで新たな幕開けを祝福するかのように眩しい照明に照らされて、SHINバンドによって『From the beginning』は歴史を塗り替えていくように奏でられた。

「ありがとう。これからも一緒に歩いてください!お願いします!俺がもう一度みんなを武道館へ連れて行くから!よろしく!」

ノーマイクで「ありがとうございました!」と叫んで一礼。
そんなSHINくんに、オーディエンスは精一杯の拍手を贈る。
声を出せないのがなんとももどかしいが、きっと心の声援はステージに届いたことだろう。

拍手を背にSHINくんがステージを後にすると、名残惜しそうにその背中を見ていたオーディエンスがまだその歌声が聞いていたいとばかりにすかさずハンドクラップをはじめた。
もう一度、もう一度、とフロアに響き渡るクラップ音が大きくなっていく。
するとそれに応えてSHINバンドが再びステージに姿を現した。

「やるか!」

先ほど少し遠いまなざしをしていたSHINくんは、すっかり色んな想いが晴れたような表情でそう言った。

「もう、コレは要らん!」とイヤモニを外し、ふとドラムセット前に置かれたファーコートに視線を落とす。

「あっ、ヤベ…『From the beginning』でファーコート肩にかけるつもりだったの忘れてた」

オイッ!!!(笑)

わざわざファーコートをかけて出てきたのにすぐに置き捨ててしまったので妙に出番が短かったと思ったらまさか忘れていたとは…そういう天然ぶりがSHINくんらしくもあり、それだけパフォーマンスに集中していたと言うことだろう。恐らく色々と考えて用意しただろうに、当の本人は「ま、いっか」と笑い飛ばしている。

「もう音程もどうでも良いよね?今日は喉を終わらせる気持ちでやる!みんなも拳上げて心の声をここまで届けてくれ!!行けるか?ぶち上げていくぜ!!やるぞ!!やるぞ!!」

SHINくんの叫び声に合わせて『jack the ripper』が始まり、ステージ上の全員が今日イチに激しいパフォーマンスを繰り広げる。SHINくんは激しい身振りで台に足を掛けたもののちょっとバランスを崩したりとドジな一面を見せつつ、アンコールのバラードでの丁寧な感情の込め方とが全く違ったベクトルで、感情のメーターを振り切って声を荒げた。なんなら時々歌うことを放棄して叫んでしかいないのではないか、というような熱いパフォーマンスだ。
会場の熱が最高潮に達したのも束の間、曲が終わる。
『From the beginning』で色々と感じた情緒が全て吹っ飛び、全てから解放されたような感覚になった。

「今日は最高でした!ありがとう!またやろう!!東名阪来てね!!バイバイ!!」

SHINくんは次の「約束」を言い残し、颯爽とステージを後にした。

 

さいごに

『From the beginning』と銘打った2019年のO-EAST公演から3年。
2022年12月のO-EAST、この日の総て、ひょっとするとソロ活動の総てが『From the beginning』に集約されていたように思う。

初めてこの曲をソロ活動の中で聴いたのは、2018年9月29日に札幌Crazy Monkeyで開催されたワンマンツアーの最終公演だった。
正直、あの曲はViViDの『From the beginning』とは全く違う曲だった。
重ねられたSHINくんのコーラスに瑠くんの華やかなギターが色を添え、全ての楽器の音色が踊るように重なって札幌のライヴハウスに鳴り響いたあの曲を『From the beginning』と呼ぶのに抵抗がある程に、原曲に囚われないアレンジが施されていた。

―――And this past and future I dreamed of hid away
(訳:そして、私が夢見た過去と未来は影を潜めた)
ここから始めよう―――

ラスサビ前、辛い現実を前にし、その上で新たな決意を示したこの小節が歌われることがなかったのが、筆者にとって「あの曲は違う曲だ」と感じた決定的な瞬間だった。

『From the beginning』は2015年当初から、ViViDの曲と言うよりSHINくんの曲だった。
今この瞬間、夢と希望を持って突き進んだ幸せな日々は潰され消えた。ここにいるファンの心を取り連れ去って、ここから新たなスタートを切る。
SHINくんがそんな強い決意を持って創り、この世に出した曲だ。
それは2015年当時にも歌詞を見てすぐに理解した。

けれど、楽曲というものは作者の手から世に放たれた瞬間、リスナー自身がそれぞれの解釈をするものだ。
筆者にとってあの曲はSHINくんのソロの始まりの曲と言うより、ViViDの終わりと、そしてあの空間にいる全ての人たちの始まりを告げる曲だった。

2019年の『From the beginning』と今回の『From the beginning』は札幌で披露されたそれとは異なり、どちらかというとViViDに近い形(むしろほぼそのままのアレンジ)で披露された。
それにも関わらず、不思議とあの頃感じていた「ViViDの終わりと、そしてあの空間にいる全ての人たちの始まりを告げる曲」という感じはしなかったのだ。
今度こそ真っ直ぐに「SHINくんがファンの手を引いて前へ進む曲」に受け止められた。

「今日はみんなとの未来の曲として歌います。」

SHINくんのあの一言に全てが詰まっていた。
同じ曲でもその時のヴォーカリストの背景や歌声に込めた想い、また受け止める側の心象によって、こんなにも曲の印象は変わるものなのか、と不思議な気持ちだ。

2023年、来年はどんな活躍が見られるだろうか。
新たな事務所で「日本武道館」を目指すSHINくんの活躍を楽しみに見守りたいと、そう思った夜だった。

 

最後にLIVE後のSHINくんのTwitterより。
顔の隠し方下手くそ選手権か(笑)。

ピンチヒッターのベーシストさんとのお写真も。

隠す気があるのかないのか…(笑)

 

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

尚、あくまで個人的感想・個人的解釈によるものですので、感想や考え方の相違について異論や誹謗は受け付けておりませんことをご承知置き願います。